あの日食べたバターライスの不味さを僕達はまだ知らない。(実写版)

We still don't know the distastefulness of the butter rice we ate that day. (live-action version)

マイ・ベスト・ミステリー IV

 『マイ・ベスト・ミステリー』は作家が最も好きな自分の作品と他人の作品を各一編ずつとその作品に関するエッセイを収めたアンソロジー。全6冊出ててそれぞれ6人程度の作家のものが収められてる。『IV』は赤川次郎、夏樹静子、西村京太郎というかなりベタな作家が納められている。一編くらい読んでみようと思ってこれを買った。

赤川次郎

赤川次郎『日の丸あげて』

 ちょっと社会派というか政治批判を込めた小説だけど、あまりにも著者に都合が良すぎる。著者が嫌いな国旗が大好きな警察が人殺して自殺しちゃったって話。いかにも全共闘世代って感じ。もっといい作品がいくらでもあるんだろうけど、初めて読んだ作品がこれっていうのはちょっときつかった。自選の悪いところが出た。聞き込みを装って噂を流すところの展開はなかなか面白かった。

夏樹静子『輸血のゆくえ』

 子供の頃に母親を殺した男が偶然夫の友達になって、その男に復讐するという話だけど、この偶然はかなり無茶な気がする。あと、もっと早く血を調べろよ。事件の真相がはっきりしないところがいい。

高橋克彦

高橋克彦『ねじれた記憶』

 よくできてる。しかも文章も情感があっていい。一単語でネタバレになっちゃうので書かないけど不思議な話。

都筑道夫『よろいの渡し』

 『なめくじ長屋捕物さわぎ』というシリーズの一作目。ABCDを当て字で英美司泥って書く軽薄さが耐えがたかったのと、地名がやたらと出てきて一々今でいう何処其処というのが書いてあるのが読みづらくてなかなか読みすすめなかったけど、終盤は結構引き込まれた。船から人が消えるトリックは大したことなかったけど、もう一つ裏があるのと、なめくじ長屋に住む非人の設定が面白かった。

夏樹静子

夏樹静子『足の裏』

 これも偶然起こった事が鍵になってるけど、『輸血のゆくえ』と違ってこっちは、糸が縦にピーンと張ってるような感じで、一つの偶然が全ての出来事をきれいにつなぎとめてる感じがする。

木々高太郎文学少女

 この作品はこのアンソロジーの中で一番いいと思う。文章がいい。落ち着いた、スッキリした文体で、筋が結構ドラマチックな割りに地味な印象を受けた。

西村京太郎

西村京太郎『南神威島』

 民俗学的小説。それなりに書けてる気もするけど、もう少しリアリティがほしかった気もする。例えば神社のディテールとか(話者である主人公が神社に行かないから語れないけど)。病名が出てこないのも引っ掛かった。
 一編だけだからベタな作品を読みたかった気もする(赤川のも)けど、こんな作品も書いてるってことを知れたのは良かったかもしれない。

山村美紗『残酷な旅路』

 ちょっと出来過ぎかな。犯罪がうまく行き過ぎる。そういう作品なんだと思えばいいんだけど、どこかで破綻しなきゃおかしいだろとも思う。それなりに面白い。良くも悪くも安心して読める。
 西村のエッセイにあるこの小説に関するエピソードが面白い。「私だって、生きるか死ぬかの問題なのよ」by山村。3ページのエッセイなので西村にとっては朝飯前なんだろうけど、文芸サロンのことも書いてあってなかなか興味深い。

松本清張

松本清張西郷札

 清張らしいちょっとジャーナリスティックな小説。男の嫉妬が裏テーマになってる。作中の新聞記者も「西郷札」の読み方が分からないという場面が出てくる。

木々高太郎ヴェニスの計算狂』

 素人にありがちなことで、タイトルをちゃんと見ずに読み始めたけど、結果的には主人公の東洋人が何をしてるのか分からなくて良かった。こっちも叙情的。『文学少女』と比べると展開がかなりシンプル。

森村誠一

森村誠一『魚葬』

 ミステリーと思って読んだので、前半のホステスとしての来歴が長々と書いてあるのは何なんだと思った(面白かったけど)。せいぜい二つの事件を結び付ける効果しかないのに。エッセイを読んでこの小説は女の一代記が書いてあるんだと思った。事件はエピソードの一つ(最大のものではあるけど)でしかない。
『よく東京は人が住む環境ではないと言われる。(中略)だが、私はそんな街こそ、人間が住む町だとおもう。(中略)東京の緊張と危険と汚濁こそ、人間が住む生活空間である証拠である。』

笹沢左保『赦免花は散った』

 『木枯し紋次郎』の一作目。一作目として虚無的な主人公を作り出すのに成功してると思う。自死、脱獄、裏切りと刺激的な要素がそろってる。