あの日食べたバターライスの不味さを僕達はまだ知らない。(実写版)

We still don't know the distastefulness of the butter rice we ate that day. (live-action version)

ブルースの女王

 『ブルースの女王』(原題:BESSIE)はブルースシンガー、ベシー・スミスの人生を描いたテレビ映画で、ラッパーのクィーン・ラティファがベシーを演じている。クィーン・ラティファと言えばアニオタ的には『甘城ブリリアントパーク』のラティファ姫の名前のネタ元として知られている。

 ベシー・スミスは1920年代から30年代にかけて活躍した女性ブルースシンガーで、女性ブルースシンガーとしては歴史上もっとも名高い存在と言ってもいいかもしれない。ブルースのみならず、黒人音楽の歴史の中でも重要な存在と言ってもいいだろう。

 英語版ウィキペディアのこの映画のページにBESSIEはどこまで真実か?というようなタイトルの記事がリンクしてあるように、虚実ないまぜになっているようだ。映画ではベシーに長年連れ添うガールフレンドがいるのだが、この人物は実在しないということのソースとしてその記事がリンクしてある。

 ちょっと衝撃的だったのは、茶色い紙袋を顔の横に並べて肌の色と比べられる紙袋テストだ。ベシーの肌の色が紙袋より濃いからステージには出さないと言うのだ。これを黒人がやっている。つまり黒人同士の間で肌の色が濃いか薄いかで差別があったわけだ。これが創作だとしたらあまりにも悪趣味なので事実である可能性が高いように思う。

 その後、ベシーがオーディションをする立場になって紙袋テストをするのだが、ベシーは逆に肌の色が紙袋より薄いから失格と言う。のちの公民権運動や黒人至上主義にもつながる発想だが、これはかなりフィクショナルな感じがする。

  ベシーが乗る列車に向かって畑の中から黒人たちが手を振るシーンがある。ベシーの成功を象徴するかのような感動的なシーンだが、自分は少し違和感を抱いた。

 戦前のブルースはカントリーブルース、シティブルース、クラシックブルースの3つに大別されるのだが、ベシーの音楽はクラシックブルースで、ジャズ寄りの、白人を含む中産階級向けの音楽というイメージを持っていたからだ。

 KKKに妨害される場面があるように、南部では黒人に支えられていたのかもしれない。のちに白人を含む中産階級と思われる客の前で歌う場面も出てくる。

 クィーン・ラティファのシンガーとしての力量は大いに発揮されている。容姿もベシー・スミスそっくりに見えてくる。音楽的には上記のとおりジャズ寄りのきらびやかな音楽なので聞き飽きることはないと思う。

 ちなみにこの映画で使われていた猥歌は実在した女性ブルースシンガー、ルシール・ボーガンによるもので、音源もボーガンが実際に録音したもののようだ。