オーティス・レディングはサザンソウル、ディープソウルを代表するシンガーで、飛行機事故で26歳で夭折したこともあって伝説的な存在になっている。そのオーティスのセカンドアルバム"Sings Soul Ballads"はサードアルバム"Otis Blue"に次いで代表作に挙げられるアルバムだが、自分はこのアルバムをどう評価するかを考えると微妙な気分になる。曲によって出来にばらつきがあってオーティスの熱気が感じられない曲が何曲もあるからだ。
このアルバムに収められている全12曲を大別すると以下の通りになる。
1.オーティス・レディングの代表曲2曲
2.有名曲のカバー5曲
3.地味なオリジナル曲5曲
このうち、2.に分類した有名曲のカバーの何曲かは、オリジナルのシンガーが強力すぎることを差し引いても覇気が感じられない低調な出来になっているように思う。翻って3.に分類した地味なオリジナル曲は代表曲に挙げられることのない曲で、楽曲としてはさほど質の高くないものも含まれるものの、いずれも叙情性に満ちたオーティスの音楽の魅力を伝える内容になっている。
1.に分類した2曲のうちの1曲"That's How Strong My Love Is"はカバー曲だが、O.V.ライトのオリジナルを聴いても同一曲と気付かないほどオーティスのオリジナリティの表れた曲で、オーティスの代表曲と言うべき曲なので2.とは別の分類にした。"Mr. Pitiful"はアップテンポの曲としては"Respect"、"I Can't Turn You Loose"と並ぶオーティスの代表曲だ。
3.に分類したのは"Chained And Bound"、"Your One And Only Man"、"I Want To Thank You"、"Come To Me"、"Keep Your Arms Around Me"で、最初の2曲をオーティスが作曲しているのだが、楽曲としての質が高くないと上に書いたのは主にこの"Your One And Only Man"を念頭に置いてのことだ。メロディが中途半端で曲としての出来がいいとは思えないのだが、オーティス自身は67年のヨーロッパ公演でも演奏しており、この曲に愛着を持っていたようだ。楽曲に対しては辛い評価をつけるけど、切々と歌うオーティスの歌まで含めて評価するならさほど低い評価もできなくなる。他の曲も総じて地味な印象だが、いずれもこのアルバムの価値を高める出来になっている。
2.に分類した5曲のオリジナルはジャッキー・ウィルソン、サム・クック、チャック・ウィリス、インプレッションズ、ソロモン・バークの5組だ。結論を先に書くと、自分が2.に分類したカバー曲に覇気を感じられないのは、オーティスにやる気がなかったからでも何でもなく、テンポを落としすぎたせいでだれた印象を受けるだけなのではないだろうかということだ。"Nothing Can Change This Love"のサム・クックによるオリジナルはミディアムスローとでもいうべきテンポなのだが、それをオーティスはかなりゆったりとしたスローテンポにしているのだ。"A Woman, A Lover, A Friend"(ジャッキー・ウィルソン)も同様だ。"For Your Precious Love"(インプレッションズ)はオリジナルもスローテンポだがオーティスはそれをさらにテンポを落としてやっている。"It's Too Late"(チャック・ウィリス)はもともと曲がしょぼくて魅力に乏しい。*1"Home In Your Heart"(ソロモン・バーク)はオリジナルと同じようなアップテンポだが、安定感のあるオリジナルと比べると集中力を欠いているかのような印象を受ける。
つまり、バラードのカバーが失敗しているように感じられるのは、バラードアルバムを作るという企画が先にあってそれに合わせて曲をアレンジした結果、本来歌われるべきテンポよりゆったりとしたテンポにしてしまったせいではないだろうか。ファーストアルバムのタイトル曲"Pain In My Heart"と"These Arms Of Mine"の2曲のバラードはソウル史上に残るような名唱であり、それを受けてバラードアルバムを作ろうという計画が生まれたとしても不思議ではない。
ちなみにサードアルバム"Otis Blue"ではサム・クックの曲を3曲カバーしているが、このうちの"Shake"はオリジナルよりテンポを上げた結果オリジナルよりも良い出来になっていて"That's How Strong〜"と同様、カバー曲でありながらオーティスの代表曲になっている。