東洋経済のアニメ特集から、アニメ業界の雇用条件の悪さに関わりそうな部分を少し引用する。
アニメ市場は過去最高を更新し続けているが、制作業界の成長率は市場全体を大きく下回る。その根源にあるのが、製作委やテレビ局が支払う制作費の頭打ちだ。金額は作品によって異なるが、相場は1話あたり1500万〜2000万円と20年前からほぼ変わらない。
(p.39 東洋経済・杉本りうこ記者)
少しずつ変えてきたつもりだが、結果としては20年前とまったく変わっていない。好きなことをやれればおカネは少なくてもいいという人がいると、そこに仕事が集まる。でもそれはやる気の搾取だ。
(p.45 神山健治監督)
「20年」と「やる気の搾取」というのが重要なキーワードで、よく話題になるアニメ業界の賃金の低さはやはり失われた20年と呼ばれるデフレ不況下におけるやりがい搾取の構図そのものだと言っていいだろう。
やりがい搾取(補償賃金仮説)については、経済学者でアイドルにも詳しい田中秀臣氏のサッカーダイジェストのインタビューを参考にするのがいいだろう。
【短期連載】『AKB48の経済学』著者に訊く“Jリーグと日本経済”第2回「Jリーガーの年俸とデフレ脱却後の未来図」 | サッカーダイジェストWeb
『J2やJ3では年収100万〜200万円台の選手もいる』というサッカー選手と『スターダムに乗る前のアイドルの報酬は、基本的に月収ゼロから、あっても月三万円程度の薄給』というアイドル、そして『平均年収は、新人の多い「動画」で111万円』というアニメーターはいずれも、賃金の低さをやりがいで補う「やりがい搾取」に当てはまっている。
デフレに順応したビジネスモデルおよびデフレ後のとるべき道については上記のインタビューの続きを。
【短期連載】『AKB48の経済学』著者に訊く“Jリーグと日本経済”第3回「JリーグとAKB48の類似性」 | サッカーダイジェストWeb
デフレ下での典型的なビジネスモデルとして挙げられているのはコアなファンを獲得することで、少数のコアなファンに支えられているアイドルはもちろん、リピーターの獲得を目指してきたJリーグにも当てはまる。アニメで言えば高額な円盤(DVD、ブルーレイ)を買う層に支えられているというところだろうか。
デフレから脱却して景気回復が本格化すると、今まで趣味にあまりお金をかけてこなかった人たちが、よりお金のかかるレジャーを楽しむ可能性が増えて、コンテンツ間の競争が激しくなる。アイドルもJリーグもアニメも固定層だけでなく、幅広い層を取り込むことができるかがカギになる。
『君の名は。』や『この世界の片隅に』のヒットはアニメ業界にとっては明るい兆候と言えるだろう。